【読書】香りの世界と調香師の研究ノート

【読書】香りの世界と調香師の研究ノート

高校を卒業してから、出かける前には身だしなみとして香りを纏うのが習慣になった。
19歳のときに最初に買った香りは、ティーン向けの安いボディフレグランス。ロフトやプラザで売っているフィアンセのシリーズだったと思う。青い瓶に入っていた。現在は廃盤になっているのか、それとも私の記憶違いなのか、そのフレグランスを見つけられない。青い瓶に入っていて、ジャスミンのような爽やかで甘い香りだった。時々、人混みで似た香りを嗅ぐと、今でも当時の気持ちや風景が蘇る。

香りは一瞬で意識を〈現在〉から引き剥がす。私たちの体は匂いに反応してリラックスしたり、逆に不快になったりして、それは自分の意思でコントロールできないからこそ、香りの力に魅せられる。

働くようになってストレスを感じることが多くなると、より一層香りの力に頼りたいという気持ちが強くなった。リラックスできる香り、安眠できる香り、気持ちを上げてくれる香りを探して、いろんなお店に行ってはテスターをクンクンしている。

その中でふと気になったのが、多くの香水で感じる「最後の刺激臭」だ。
ラストノートで香るツンとした刺激臭が、昔よりも受け付けなくなった。購入を決める前に成分表なんかでチェックできたらいいなと思い、匂いの正体を調べようと香りに関する本を探していたら、『調香師の手帖(ノオト):香りの世界をさぐる』という本を見つけた。

中村祥二著『調香師の手帖(ノオト):香りの世界をさぐる』

著者の中村祥二氏は、資生堂にて香水や化粧品の創作や研究を行ってきた調香師・パフューマーである。1958年、東京大学農学部農芸化学科を卒業後同社に入社してから、もう50年以上も花香や香りの生理心理効果について研究してきた「香り博士」だ。

この文庫本は、1989年に朝日文庫から出版された『香りの世界をさぐる』に加筆されたもので、文章内で言及される日付が少々古いのはそのためである。しかし、新装版には新しい情報も追加され、より科学的証拠に裏付けされた部分も多くなっている。

そして、調香師・パフューマーの仕事内容はもちろん、香りの種類やその効能、香りの歴史、そして人間の嗅覚にまつわる不思議な話まで、〈香り〉に関する情報でぎっしり詰まった一冊となっている。

「香水の最後にくる刺激臭は何か」の答えを探すために読み始めたのだけど、他の内容があまりにも面白くて興味深くて、すっかり自分の問いを忘れて読み耽ってしまった。

香りに向き合うと、化学、歴史、経済学などの多様な知識が必要になる。
人の体がタンパク質や水でできているように、花の香り一つをとってもいくつかの物質から構成されており、その割合によっても香りは大きく変化する。
また、高級な香料は、古来より輸出入品として経済に深く関わってきた。今でも世界情勢が変化すると、香料の価格が変動したり、そのせいで香水の製造に大きな影響を与えることもあるという。
さらに香りの研究者たちは、古くからある天然香料の成分を解析するために様々な文献を当たったりもする。なんとも幅広く、そして奥深い世界だと思う。

ストレスに効く香りを探していた私にとっては、第4章の「香りで癒す」の章に登場するローズウォーターや、頭痛に効く香りについての項目が面白かった。早速試してみようかな。

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結局私の問いに答えてくれたのは、サンタマリアノヴェッラの某店舗のお兄さんだった。彼は香水の販売員として長年キャリアを積んできた人のようで、聞けばいろんなことを教えてくれた。

香水のラストノートに表れる刺激臭、それは「ムスクの香り」らしい。
香水のベースに使われるムスクは、最後まで香りが残りやすい。質のいいムスクであれば、私が不快だと感じるような刺激臭がないのだけど、それは非常に高価なものなのだそうだ。

優れた香水の条件の一つは、香りに持続性があることである。いつまでもにおう白檀(びゃくだん)のような木の香りと同様に、ムスクは持続性を与えるために極めて重要な役割を果たしている。

同書、p87

若い世代が購入しやすい低価格帯のフレグランスには、そうしたムスクは使われにくい。お兄さん曰く、メゾンのフレグランスでも最高級のもの、著名な調香師が配合した作品は、最後までそういった嫌な匂いがないとのことだ。

フレグランスやオイルを片っ端から買うお金はないけど、香りは必ず「試嗅」できるのがいい。ピンとくる香りを探しに百貨店やセレクトショップまで巡るのが好きだ。これは自分に課した大人の自由研究であり、匂いフェチの趣味である。

Photo by Ju Desi on Unsplash

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