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【イコノロジー(図像解釈学)】感想を超えて絵を読むためには

みなさんは「この絵の意味を知りたい!」と思ったことはありますか?
大抵の人はまず、その作品について調べたり、アーティストについて調べたりするのではないのでしょうか。

しかしそれだけではどうも理解した気になれない時があります。

「よく見るとここに骸骨がある。どうしていきなりこんな所に描かれてるんだ?」
「どうしてこの果物は、皮がむかれた状態で描かれてるんだ?」

絵をじっくり見ると、そうした発見が山ほど出てきます。画家がきっと意図的に残した「何か」を発見することはとてもワクワクしますが、その意味の見当がつかなければ「なぜ?」が溜まっていく一方です。悶々とします。

そんな時に使える方法論の一つとして、「イコノロジー」というものがあります。いつか美術を学んでみたいと考えている人もぜひ一度調べてみてください。
今回の記事を書くにあたって、NHKブックスから出ている若桑みどりさんの『絵画を読む:イコノロジー入門』を参考にさせていただきました。

【イコノロジー(図像解釈学)とは】

「どのように絵画を解釈するか」という問いは、これまで様々な美術家たちが抱いてきた問いでした。

その歴史は意外と長く、近世ごろには既に美術批評家がおり、作品の解釈法についての様々な論を展開しました。
今回紹介する「イコノロジー」は、その歴史に登場する方法論の一つになります。

まず、現代美術用語辞典で「イコノロジー」と引いてみると、

美術史家エルヴィン・パノフスキー(1892-1968)が著書『イコノロジー研究』(1939)において用いた言葉。しばしば「図像解釈学」と訳される。作品におけるモチーフの組み合わせからイメージ、物語、寓意などを認識する「イコノグラフィー」に対し、純粋な形、モチーフ、イメージ、物語、寓意などを象徴的に、すなわち以上のような作品の特質を、国家・時代・階級・宗教・哲学的信条などからなる基礎的な態度の徴候として解釈することが「イコノロジー」と呼ばれる。・・・

と説明されています。

シンプルに言えば、イコノロジーとは客観的に見てとれる絵の特徴から、時代背景や慣習といった歴史的な事実を照合させて絵を解釈するというものと言えるでしょう。

イコノロジーを提唱したパノフスキーは、以下の三段階を踏んで作品を解釈していきます。

【イコノロジーの三段階】

上記の『絵画を読む』内の13〜15ページを参考に、それぞれのステップを簡単にみていきます。パノフスキーは「帽子をとる紳士」を例えに出し、以下のように論を進めます。

第一段階/自然的意味

「紳士(対象/モノ)が帽子をとる(出来事)という情景は色、形、量、空間(時間)によって構成される知覚的世界である。だが、われわれは、彼を友人の某と認め、帽子をとるという行為を挨拶と認めるときに、すでに視覚の世界を踏み越えており、「主題と意味」の世界にはいりこんでいるのである。彼が何某であり、自分に挨拶をしている、ということを知っているからである。そのときにわれわれは何某が自分に対して親しみをもっているのか、無関心なのか、敵意を持っているのかさえも感じてしまう。・・・パノフスキーはこのように知覚的な出来事のすべてが自然に意味を持つことを指摘した上で、この段階の「意味」を「第一段階/自然的意味」と定義している。」(若桑 13)

「帽子をとる」行為に注目する、というのが第一段段階。
絵の中にある動きやモチーフの描かれ方の特徴に注目します。

第二段階/伝習的意味

「挨拶をする場合に『帽子をとる』という行為をするという伝習、つまり伝統や習俗習慣、約束があってはじめて、帽子をとった行為を見たときにそれが挨拶であることがわかるのである。・・・帽子をとるという出来事の意味を理解するということは、単に知覚的・心理的・感覚的である段階ではなく、ある文明、あるいはある集団に共有されている伝習を知っているということを必要としていることで[ある]」(若桑 14)
「帽子をとる」=挨拶と認識するには、これは西欧文化圏内であるという知識が必要になります。つまり第二段階では、絵の世界がどんな文化圏に所属しているのかを見極め、その地域やコミュニティの伝統や慣習に関する文献を当たっていく必要があります。

第三段階/内的意味・内容

「この[帽子をとった]紳士の服装、行為、表情、雰囲気というすべてのものは、彼がある時代、国民性、階級、職業、知的伝統に属するのみならず、ある固有の人格を有することの『徴候』である。・・・このように最終的には、既知のデータから出発し、その作品を成立させているもろもろの因子、つまり歴史的・社会的・文化的因子を総合的に再構成し、その作品のもつ本質的な意味を探索することが美術史の最後の仕事になる。このような意味の探索、パノフスキーに寄れば第三段階の内的意味の研究をイコノロジーと呼んでいるのである。」 (若桑 15)

そして最終段階では、第二段階で調べた伝統的・歴史的文献の他に、その時代の社会や文化を鑑みて、結びつけていく作業になります。

【イコノロジーの限界】

さて、ここまで見ると、「なるほど!絵を解釈するためにはそういう情報を調べることが必要なのね!」となったかもしれません。(少なくとも私は目からウロコでした。)
しかし、気をつけなければいけないのは、全ての作品に対してイコノロジーは有効である訳ではないということです。

この方法論が通用するのは、「画家が慣習や歴史を踏まえて絵を構成していた」という前提が通用する場合に限ります。

つまり、その画家が活躍していた時代やコミュニティにおいて、絵を描く上である程度しっかりしたルールが存在していたことが解明されている場合に限るのです。

若桑さんもこう指摘しています。

「たとえば近代、現代のように、画家が伝承や共有性よりも独自で非伝統的な図像を想像することが一般的になった場合には、図像学はほとんど役に立たない。・・・そのような主題を持たない作品の解釈には、以上に述べた文献的研究も図像学的研究もまず役には立たない。」

伝統とか慣習なんて糞食らえだぜ!そんなもん全部無視してやる!という画家がいたら、当たり前ですがイコノロジーはそれに対応できません。
ペンキをぶちまけたようなジャクソン・ボロックの作品から、慣習や伝統的意味を読みとることは非常に困難です。
またシュルレアリスムなどは「無意識」というものが大きく絡んでくるので、心理学等も考慮しなければ精度の良い研究にはなりません。

こうしたことを踏まえると、イコノロジーという手法での解釈が有効な画家や時代というのは、結構限られてくるのです。
残念ながら、現代アートを解釈したい!という方に対してはイコノロジーはあまり有効な手段とは言えないでしょう。

【美術解釈の一歩として】

こうしたイコノロジーの特徴を理解した上で、絵の解釈を試みる方法の一つとして、イコノロジーを実践していただけたらなと思います。きっとより深く、絵を読むことができるのではないでしょうか。

イコノロジーに興味を持った方、すぐにパノフスキーの『イコノロジー研究(上下巻)』を読んでみるのもいいですが、今回参考にさせてもらった若桑みどりさんの『絵画を読む:イコノロジー入門』を読んでみることもオススメします。
初心者向けなので、美術史に関する知識も丁寧に説明されているし、12章でそれぞれ一つの絵を読み解いていくので、様々なケースを勉強できます。
ちなみに私は『イコノロジー研究』は途中で挫折したタイプなので、頃合いを見てもう一度チャレンジしようかと...笑

「美術=主観的、文系=主観的」という偏見に晒され、肩身の狭い思いをすることもあります。しかし、美術だろうが文学だろうが、歴史的資料や裏付けによって追求されてきた立派な学問であることを理解してもらえたら幸いです。

Top photo by Hermann

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