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【本】 『昭和幻燈館』 久世光彦エッセイ

定期的に読みたくなる本があって、その中でも飛び抜けて好きなのが久世光彦の『昭和幻燈館』というエッセイ。
著者の幼少期、青年期の記憶と結びつく昭和時代の文化、文学作品などを綴ったものなのですが、知的なのにお耽美、そして幽玄的な世界を探索するような本なのです。

久世光彦(くぜてるひこ)はテレビの演出家、プロデューサーとして昭和のTBSで活躍した人。その彼が1987年に初めて出版した本がこの『昭和幻燈館』で、これ以後は随筆や小説といった執筆活動も始めました。

文筆業を始めた時、彼はすでに50歳でした。しかしだからこそ、豊富な経験と知識量に裏打ちされた密度の濃い文章を生み出すことができたのだと思います。

私の文章が積み木レベルだとしたら、久世の文章はゴシック建築レベル。長年の培った熟練の技巧を持って、細部は繊細に彫り込み、建屋全体のスケールはずっしりと荘厳に創り上げることができる職人です。

秋から冬にかけての早朝の色合いは美しいです。何枚同じような写真を撮ったことか。

このエッセイの解説に、評論家の川本三郎が寄稿しています。
川本の批評は「言うねえ!」と思うくらい歯に衣着せぬ物言いですが、的確な表現かつ久世への愛が感じられます(笑)

濃厚な美意識のおもむくままに語られていくのは、江戸川乱歩であり、ヴィスコンティであり・・・そうした文学者や絵師の名前を挙げただけで久世光彦の、微熱を帯びた"病葉趣味"は明らかである。(265)

久世光彦は、テレビの名ディレクターとして世に名高いが、ここでは、そうした表の仮面ははぎとられ、「感傷的な文学少年くずれ」というもうひとつの仮面が姿をあらわす。(266ー267)

病葉趣味の文学少年くずれって...笑

私がこのエッセイや久世の文章が好きな理由は、美しい日本語と、ズバリその知識量と知識の種類です。美しい日本語を書く人はたくさんいます。しかし私は、たくさんのキーワードや知識を拾いながら読める情報量が多い本でないと物足りなく感じてしまいます。だからあまり小説は読みません。

ネイルも秋色にしてもらいました。

『昭和幻燈館』は、様々な固有名詞が頻出して、しかもそれらが耽美でノスタルジックな久世の世界の中で妖しく蠢いています。

知らない単語ばかりなので、1枚目の写真のようにいちいち調べながら読んだりもしています。ですが、知らなくても十分読書として楽しめます。それは彼の表現が「視覚的」であるので、簡単に古い映画のようなワンシーンを思い描くことができるからです。

「好きな本は?」と聞かれた時にいつも答えたい本なのですが、大体の人に「その作家知らないなぁ」と言われるので、ひっそりと自分の胸の中にしまっていた本の話でした。

 

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